研究概要 |
人間の周囲を映像で囲んでしまうことで高い臨場感を与える装置は,没入型ディスプレイと呼ばれている.没入型ディスプレイは,装置の規模が大きくなり移動や設置が難しいという問題,大型の映像に直接触ってインタラクションすることが難しいという課題を抱えている.これらの問題に着目し,本研究ではインフレータブルを利用した新しい没入型ディスプレイを提案している.インフレータブルとは,小型ボートや浮輪に利用されている空気注入式のバルーンで,弾力性を持たせつつ形状を維持するのに都合がよい.また,装置を使わない場合は空気を排出すれば容易に片付けることが可能となる. 試作した没入型ディスプレイは,直径1.3mのトーラス形のインフレータブルを積み重ねて円筒形にし,内側に伸縮性のスクリーンを縫い合わせたもので構成されている.映像の投影には,プロジェクタ映像を凸面鏡によって拡散する手法をとっている.ユーザは円筒の内側に入り,曲面で囲まれた映像を見ることになる.スクリーンに直接触ってもよいという特性を生かすため,円筒形の外側にセンサを取り付け,ユーザがどこに触ったかを計測することも試みている. 接触検出に適したセンサについて,マイクロフォンと加速度センサの2種類を検討した.マイクロフォンでは,取り付け方法によってセンサ特性のばらつきが生じ,キャリブレーションが難しいという欠点があった.一方,加速度センサでは装置全体のゆれに弱いが,結果としてマイクロフォンよりも正確な位置検出ができることがわかった.さらなる検出アルゴリズムの改良が必要だが,現時点ではセンサ間隔の4分の1程度までは検出できることがわかっている. 空気を利用した装置の特徴は,多少乱暴に扱っても安全であること,使用しないときには空気を抜いて収納できることである.これらの特徴を生かし,病院や学校などに応用を検討している.
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