研究概要 |
本研究では認知機能に重要な役割を果たしている前頭葉の神経細胞の活動を定性的に説明する人工神経回路網を構成することを目的とする。特に課題を切り替えて行っているサルの前頭葉の神経細胞活動を説明する人工神経回路網を構成する。これは前頭葉を損傷している患者に対して,認知機能を回復するためのブレイン・マシーン,インターフェイス(BMI)を構成するのに役に立つ。平成19年度は人工神経回路網の開発をおこなった。BMI研究において外界の変化によって,脳内のニューロン活動が変化することが知られている。例えば,ニューロン活動から腕の運動軌道の情報を抽出して,それを用いてロボットアームを操作するときに,始めはうまくロボットアームを操作できないが,次第にニューロン活動が変化してロボットアームを操作できるようになる。このときニューロン間のシナプス結合が動的に変化したと予想される。これは,高頻度のシナプス入力がニューロンに入った時に,シナプス荷重が減少するシナプス減衰と呼ばれる現象により示唆されている。このようにシナプス減衰現象は重要な役割を果たすと予想されているが,その機能的な役割はよく分かっていない。そこで人工神経回路モデルである連想記憶モデルにシナプス減衰モデルを組み込んで,シナプス減衰が連想記憶モデルにどのような影響を与えるかを調べた。その結果,連想記憶モデルの引き込み領域は拡大した。これは,入力により多いノイズが入ったときでも,正しくパターンを想起できることを意味している。先行研究において,連想記憶モデルを用いて脳内の神経細胞の挙動を定性的に再現できることが分かっている。それゆえ,今回のモデルを発展させることで,課題の切り替わりという外界の変化によって,シナプス結合が動的に変化したときの人工神経回路モデルを開発でき,課題切り替え機能を補填する人工神経回路モデルの開発につながる。
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