研究概要 |
人間に酷似したアンドロイドの人間らしい動作を実現するために,まず前年度はモーションキャプチャシステムを用いて人間の姿勢を計測し,その姿勢をアンドロイドに写像する手法を開発した.本年度は連続的に与えられた姿勢から求められる関節角目標軌道に追従するための制御器の学習手法を開発した.アンドロイドの空気アクチュエータは強い非線形性を有するため,高精度の軌道追従制御を実現するための制御器の設計は困難である.そこで制御対象の逆モデルをニューラルネットワーク(NN)で学習し,フィードフォワード制御により軌道追従を実現する.この際,制御対象のアンドロイドのアクチュエータは従来研究で使用されているアクチュエータと比較して,むだ時間を含む大きな応答の遅れを有する.このため,既存のフィードバック誤差学習などでは,学習が不安定になる結果が得られた.これは逆モデルの誤差評価に応答の遅れを考慮していないためである.そこで本研究では,応答の遅れに対応するために未来の誤差の時系列平均を導入した学習手法を開発した.開発した手法により,腕の2自由度の目標軌道追従を行うための制御器を学習することに成功した. 上記の手法で学習される制御器は,与えた目標軌道専用の学習器である.アンドロイドの動作をあらかじめ全て用意すること現実的ではないため,種々の動作を実現する制御器を学習するためには,逐次的に学習可能な手法が必要である.従来のNNでは逐次的に教師データを与えると以前の学習結果が破壊されることが知られている.そこで本研究では人間の記憶に関わる脳内プロセスであるConsolidationをモデル化した,オンライン運動学習とオフライン長期記憶学習の2つのNNを用いた学習システムを開発した.アンドロイドの腕の1自由度を用いて,4つの目標軌道を逐次的に学習させたところ,最終的に4つの目標軌道追従を実現する1つの制御器を学習することに成功した. 次に人間の動作モデルとして,人間のある動作がその動作の意図を示す大きな動きとその動作の意図を示さない小さな動きの組み合わせからなる階層的モデルを考えた.動作の人間らしさは大きな動きの多様性のみならず,小さな動きの多様性にもあるという仮説を立て,それを検証する実験を行った.例としてリーチング動作では,人に触れる場合と物に触れる場合では手先の軌道がわずかに変化すると考えられる.この対象との社会的関係により変化する腕の小さな動きモデルを,実際の人間の動きをモーションキャプチャで計測することにより作成した.具体的にはリーチング動作において,腕を戻す時に対象の近身体空間で手先の軌道が異なるモデルを作成した.アンドロイドのリーチング動作において,このモデルの有無による動作の人間らしさを被験者に評価させる実験を行い,人間らしさに関わる評価項目で統計的有意差を確認した.小さな動作の多様性がロボットの動作の人間らしさに関わるという結果は,ロボットの人間らしい動作生成に役立つと考えられる.
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