研究概要 |
人間の感情や行動を理解する技術は,精神面での健康管理や疾患の早期発見,感性評価,情動に対応したヒューマンインターフェースなどへの応用が期待されている.そこで,本研究では,工学を中心に心理学や精神医学などの知見を組み合わせ,生体信号から人間の心理状態を推定することを研究目標とした. 平成18年度は,前年度に引き続き落ち込んだ気分状態であるうつ状態を研究対象に設定した.そして,10名の被験者(健常者6名,精神疾患患者4名)に対し,非侵襲ウェアラブル生体信号計測装置(Sense Wear Pro2 Armband, Body Media社)を用いて,日常生活における生体信号を2ヶ月〜1年間連続して計測した.続いて,意識の影響が低下し心理状態が反映されやすい睡眠中の信号を解析した.具体的には,寝返りによる姿勢変化によって加速度がステップ状に変化することを利用した寝返り検出手法を考案し,82.4[%]の寝返りを正しく検出できた.また,睡眠の深さと寝返りの頻度には正の相関があると考え,寝返りと寝返りの時間間隔から睡眠の深さを2段階に分類する手法を考案した.さらに,深い睡眠が長いほど良質な睡眠と考え,全睡眠時間に対する深い睡眠時間が占める割合を睡眠の質得点として提案した.最後に,健常者3名,大うつ病患者2孝.について,同一の4ヶ月間について睡眠の質得点を算出し,その平均点を比較したところ,両者の睡眠時間はほぼ等しかったにも関わらず,大うつ病患者の平均睡眠の質得点が健常者に比べて有意に低下していることが明らかになった. 以上より,継続的なうつ状態が睡眠を浅くし,睡眠の質を低下させていることが定量的に示唆された.将来的には,睡眠の質計測の精度を向上させることで,うつ状態の検出が可能になると考える.
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