研究概要 |
本研究では,脳疾患の解剖的特徴として現れる局所的脳萎縮を定量化することで,脳疾患の鑑別診断,疾患進行度の推定,さらには脳疾患治療法,治療薬の効果判定などに寄与することを目的とした.さらに,新生児から成人,老人までの幅広い年齢層への適用可能とすることを目指した. そこで本年度は,脳萎縮の局所的定量値として,脳回単位の大脳皮質の容積算出法の提案を行った.同手法は,脳回分割法と大脳皮質識別法から構成される.脳回分割においては,医師が有する脳回の構造知識をファジィ理論で表現することで,ファジィ知識ベースパターンマッチング法を提案した.また,大脳皮質識別は脳表面に位置する大脳皮質のMR信号値の変化を評価することで,大脳皮質と白質の境界を探索する手法を提案した. つぎに,上記提案手法の新生児への適用を行った.新生児においては低酸素脳虚血性脳症により脳が局所的に萎縮することが示唆されており,局所的脳萎縮の定量化により鑑別診断,進行度判定に寄与することが期待されている.しかし,新生児脳は髄鞘化の影響で,T1強調MR画像中において,非髄鞘化白質が大脳皮質より低輝度になるため,従来の手法は全く適用できない.そこで,本研究では新生児の大脳領域抽出法と,上記大脳皮質識別法の新生児脳への拡張を行った.大脳領域抽出法は,大脳皮質が脳表面を覆うという脳構造をモデル化したRubber modelを提案した.同提案手法は,Rubber modelを計算機内で撮影したMR画像に合致するまで変形させることで,大脳領域の抽出を可能とする.一方,大脳皮質識別は,大脳皮質のMR信号値の変化として,非髄鞘化白質と髄鞘化白質を動的に判定させることで,新生児脳への適用を可能とした. これらの研究により,新生児,成人,老人のすべての年齢層を対象とした,MR画像からの全脳抽出,大脳皮質識別,脳回識別の一手法を提案することができた.
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