研究課題
若手研究(B)
本研究では、中枢性神経疾患である脊髄損傷・脳卒中の病理を利用することによって、ヒトの歩行運動出力の発現に関連する脊髄神経機能の性質を実験的に検討することを目的とした。具体的には、立位姿勢下で下肢の受動運動を課すことによって生じる"歩行様筋活動"の変化に着目して、以下の2つの実験を実施した。(1)脊髄損傷者の歩行様筋活動に対する上肢動作印加の影響頸髄不全損傷者を対象として、上肢動作の印加による歩行様筋活動の変化を観察した。上肢-下肢間の神経性結合が完全に遮断されている胸腰髄完全損傷者では、何ら歩行様筋活動に変化が認められなかった一方で、頸髄不全損傷者では歩行様筋活動が上肢動作の印加によって変化する結果が得られた。本研究の結果は、上下肢を跨ぐ神経経路が歩行運動出力の発現に貢献することを示す証拠となり得る。(2)脳卒中患者の麻痺脚に発現する歩行様筋活動に対する健側脚の動作の影響運動感覚麻痺に片側優位性を持つ脳卒中患者を対象として下肢の受動運動を実施し、麻痺脚と健側脚の歩行様筋活動の関連性を検討した。健常者の場合、下肢受動運動中に発現する左右の脚の筋活動は密接な関連を示すが、脳卒中患者の場合には健常者ほど高い関連性は認められなかった。また、麻痺側では運動の継続に伴って筋活動振幅が減衰していく傾向が認められた一方で、健側では同様の傾向は認められず、むしろ運動の継続に伴って増加を示す被験者が認められた。研究課題(2)の結果は、脳卒中患者では下肢の歩行運動出力を円滑に発現させるための神経機序が損なわれていることを示唆するものであり、今後の研究ではこれまでの研究で得た体肢間の神経経路に関する知見を活用し、新たな神経リハビリテーション方法の開発を目指す。
すべて 2006 その他
すべて 雑誌論文 (3件)
Archives Physical Medicine and Rehabilitation 81
ページ: 71-76
Experimental Brain Research (in press)
Spinal Cord (in press)