研究概要 |
昨年度の研究において,HSV-1感染によって作製された帯状庖疹痛モデルマウスの後根神経節および脊髄後角において,NGFおよびBDNF mRNAの発現が上昇することを明らかにした。本年度は,神経栄養因子の中でも特にBDNFに着目し,帯状庖疹痛の発症におけるBDNFの関与を詳細に検討した。抗BDNF抗体,抗trkB抗体およびtrkB/Fcキメラタンパクの脊髄くも膜下腔内投与は,帯状庖疹痛モデルマウスの疹痛関連反応を抑制した。一方,抗trkA抗体,抗trkC抗体の投与は抑制しなかった。以上の結果から,帯状庖疹痛に脊髄後角におけるBDNF-trkB受容体システムの関与が示唆された。次に帯状庖疹痛のさらなる発症機序の解明と,trkB/Fcキメラタンパクの投与により生じた疼痛抑制メカニズムを遺伝子レベルで詳細に明らかにするため,脊髄後角における遺伝子発現を,Gene Chipシステムを用いて網羅的に解析した。アレイは約45,000種類のプローブセットを搭載したMouse Genome430 2.0Arrayを使用した。健常マウスと比較して,帯状庖疹痛マウスの脊髄後角において1.5倍以上に発現の上昇した遺伝子数は1,178個であった。そのうち,trkB/Fcキメラタンパクを投与したマウスにおいて221遺伝子が減少した。したがって,これら減少した221遺伝子はBDNF-trkB受容体の下流において発現が調節されていると考えられる。これらの遺伝子がBDNFによる疼痛反応に関与していることが示唆され,新たな鎮痛薬のターゲット分子となるかもしれない。これら発現の変化した遺伝子の脊髄後角における発現分布,ならびに疼痛反応における役割を現在検討中である。
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