研究概要 |
本研究では,血管平滑筋細胞の形状や配列状態を操作する技術を確立するとともに,細胞に対して力学刺激を加えることにより,細胞の形状や配列状態,細胞に加わる力が血管平滑筋細胞の形質転換にどのような影響を与えるか明らかにすることを目的として,2年間の研究を進めてきた. 1.マイクロパターニングによる平滑筋細胞の形状・配列制御ならびに焦点接着斑の位置制御 厚さ0.1mm程度のシリコーン弾性膜表面に対し,透過型電子顕微鏡試料用のグリッドシートをマスクとして酸素イオンを照射した.この手法により,特定の基板表面領域に官能基を形成して細胞親和性を向上させ,細胞の接着領域を制御し培養する技術を確立した.250pm×40pmの長方形状や,80μm×80μmの正方形状に細胞接着領域をパターニングしたところ,血管平滑筋細胞の形態をこれらのパターニング領域に沿って長方形状,正方形状に制御することができた.さらに,焦点接着斑の位置を細胞輪郭部位に集中させて,細胞収縮機構を構成するアクチンフィラメント(AF)を一定方向に配列させながら培養する技術を確立した. 2.力学刺激負荷試験と細胞の形態内部構造観察および形質の評価 ブタ胸大動脈血管より単離・培養した平滑筋細胞を試料として,1.によって長方形状に形態および配列状態を制御しつつシリコーン弾性膜上に培養した.そして,動脈の拍動を考慮した周波数1Hz,伸展率10%程の繰返伸展刺激を細胞の長手方向や幅方向に対して負荷した.繰返伸展刺激を常に細胞の長手方向に負荷した場合,AFが常に伸展負荷方向と同一方向に配列した形態を保ちながら,その発現量が増加した.しかし平滑筋ミオシン重鎖(SMMHC)等の発現量には著しい変化が見られなかった.また,平滑筋細胞をコラーゲンゲル内に3次元的に培養する系を構築し,同様の繰返伸展刺激を加えたところ,細胞が繰返引張方向に配向するとともに,AFやSMMHCの発現量が血管壁内から単離直後の収縮型細胞レベルまで向上することが明らかとなった.
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