研究概要 |
昨年度までの本研究課題にて手術ロボットda vinciを対象とした遠隔手術シミュレーションシステムを用いた遠隔地でのリアルタイム情報処理と触覚提示を可能とするためのシステム開発を行ってきた.本年度では,軟組織が入り組み合う腹部領域に着目し,腹腔鏡下大腸切除術シミュレーションシステムに関する研究を行い,血管処理を加えた軟組織モデルの変形処理法の考案と実装,および遠隔手術シミュレーション実行時を想定した画像更新速度における状況下による視覚・触覚情報の連動性やシステムの操作性の検討を行った. 術前CT撮像画像からシミュレーションに必要となる動静脈,大腸,十二指腸,膵臓をsphere-filled modelにより構築した.このときCT画像から得ることができない腸間膜構造を,血管走向や他臓器位置関係を参照しモデル化を行った.また本システムでは,通常のPCおよび2台の触覚提示装置を用いており,触覚提示手法は昨年度までの研究成果を応用した.臓器変形処理には臓器の材料特性の一つである異方性に着目し,その特性を考慮した変形処理方法を考案し,干渉判定計算処理の軽減,前計算による臓器間の関連付け処理やマルチスレッド処理を用いることにより,高速な臓器変形処理を行うことができた. その結果,腸間膜把持から血管結紮までの一連の手術作業のシミュレーションを両手の操作にて触覚を得ながら作業を行えることを可能とした.また,画像更新速度12〜20Hzの間で本システムを実行し,反力計算に線形補間処理を加えることにより,触覚提示速度を約1,000Hzで維持しながらスムーズな触覚提示処理を可能とした.本システムを用いることにより遠隔手術シミュレーションを大腸領域における腹腔鏡下手術においても行え,かつネットワーク遅延が発生し画像更新速度が低下する中でも比較的スムーズな触覚提示が可能であることが示唆できた.
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