研究概要 |
本研究は実寸大人形模型を用いた風洞実験により,スキージャンプ飛行局面の抗力面積,揚力面積及びピッチングモーメント容積の3つの空気力を測定した。測定に際しては,安定した飛行局面に加え,安定した飛行姿勢に移行するまでの初期飛行局面の姿勢を考慮した。得られた空気力を従属変数として,5つの姿勢(角度)を独立変数とする多項式モデルで回帰を行った。用いられた角度は上肢の位置,股関節角度,スキーの引きつけ角度,スキーの開き角度,迎え角であった。 回帰された数学モデルを用いて飛行シミュレーションを行った結果,スキーの開き角度の角速度を大きくするほど飛距離が大きくなる傾向を見せた。すなわち,ジャンプ台を飛び出した後,できるだけ早くスキーを開く方が飛距離を伸ばすことに貢献する可能性がある。しかしながら,実際の選手が行っている動作の範囲よりもかなり逸脱した角速度であったことから,安全に実行可能な範囲を限定すべく,さらなる検討が必要であると考えられる。 本研究では初期飛行局面に特有の現象と考えられる上肢の後方への振り上げの影響を検討した。上肢を固定した条件でシミュレーションを行った結果,上肢を振り上げた姿勢(上肢を体幹より後方へ20degに配置)は,上肢を体側(上肢を体幹より前方へ10deg)に配置した姿勢よりも飛距離が小さくなった。さらに,後方に振り上げられた上肢を体側方向へ回転させるように制御を行ったところ,後方に上肢を固定した状態より飛距離は増大したが,最初から体側に固定した条件よりは小さい飛距離が得られた。すなわち,初期飛行局面においてよく観察される上肢の後方への振り上げは空気力学的観点からは好ましくないことが明らかとなった。 その一方で,安定した飛行局面においても,上肢の位置の変化が空気力へ影響を与えうると推測され,今後も引き続き空気力資料を蓄積することが課題として挙げられる。
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