研究概要 |
本研究の目的は,聴覚障害児における数学的推論と表現の一般化と形式化に伴う困難性とその克服のための具体的方策を明らかにすることである。平成19年度は,共有プロセスへの教師の働きかけの記述に重点をおき,新たに目標(3),(4),(5)の課題解決に臨んだ。 目標(3)一般化・形式化される数学的推論と表現の文脈の記述と分析 目標(4)一般化・形式化される数学的推論と表現の文脈の共有プロセスの記述と分析 目標(5)一般化・形式化される数学的推論と表現の文脈の共有プロセスへの教師の働きかけの記述と分析 平成18年度までに次の2つが明らかになった。第一に,推論の特性との関連での一般化や形式化の様相の記述が必要であるが,構成の視点からとらえることが必要だということである。第二に,共有プロセスの一般化と形式化の記述と分析においては,数学にとってふさわしいかと,教室における子どもたちにとってふさわしいかという2つの視点からとらえることが必要だということである。そのために,平成19年度はGlasersfeldやGravemeijerの研究のアイディアをもとに,推論と表現の一般化と形式化の議論を再整理した。その一方で,Cobbらの実践と理論の鏡映的開発研究のアイディアをもとに,教室における社会的,社会-数学的規範から推論と表現の一般化と形式化の議論を再整理した。教師の働きかけを,子ども個々の経験の組み立てと子ども個々間の教室における規範の組み立てという2つの次元において記述・分析することが重要であるという理論的課題が明らかになってきた。本研究の成果を生かし,今後は聾学校小学部における算数授業の実証的研究を行い,聴覚障害児における数学的推論と表現の一般化と形式化に伴う困難性の克服における実践的課題を明らかにし,解決を図りたい。
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