研究概要 |
本研究の目的は,小笠原諸島父島の乾性低木林を調査対象に,詳細な気象観測に加え,植物の生理生態的プロセスの観測を新たに展開することで,既存の研究では明確にされてこなかった水文気候条件と植生構造との因果関係を明らかにすることである.本研究ではまず,父島気象観測所で観測された78年分の月別気温および降水量データを解析した.その結果,小笠原諸島における20世紀中の水文気候環境は乾燥化の傾向があり,特に夏期乾燥期が顕在化することが分かった.このことは,小笠原諸島において今後の気候変動による植生へ影響を明らかにするためには,夏期乾燥期における水文気候条件と植生との因果関係を把握する必要があることを示す.次に,水文気候条件の異なる父島の2地点(初寝山および東平観測点)で気候および植物の生理的特性についての詳細な観測を行った.デンドロメータによる観測結果から夏期乾燥期における乾燥の度合いに対応して幹生長量が異なっていることが分かった.また,夏季乾燥期に,初寝山および東平観測点に生育するシマイスノキの葉の水ポテンシャルを計測した結果,初寝山の方が東平に比べ,夜明け前のシマイスノキの葉の水ポテンシャルは有意に低かった.これらのことから,夏期乾燥期に強い乾燥ストレスを受けた場所ではシマイスノキの幹の肥大生長が抑制されると考えられた.さらに,シマイスノキの蒸散流量の観測結果から,乾性低木林の優占種であるシマイスノキは蒸散を抑制し,水利用様式を変化させることで,夏期乾燥期に卓越する季節的な乾燥ストレスに耐えて生育していることが明らかになった.以上のことから,乾性低木林の構成種は,夏期乾燥期の水文気候条件に応答して生理生態的プロセスを変化させており,その結果として植生構造に地理的な変化がみられると考察した.
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