研究概要 |
本研究の目的は,過去110万年のインドモンスーンの変遷史の解明を目指して,中央ヒマラヤに位置するカトマンズ盆地の古気候・古環境を高精度に復元すること,また古気候を具体的な数値で示すことである. 本年度は,採取した残りの試料(泥質堆積物および表層花粉試料)を用いて花粉分析・解析を行った.また,長さ218mコアの上部および長さ18mコア(最終氷期から現世までを含む試料と推定)の年代を,AMS^<14>C年代測定によって決定した.そこで,これまでに得られた花粉分析の結果からカトマンズ盆地の植生・環境変動の再検討を行い,さらにこれまでに得られたネパール各地域の気象データをまとめ,それと現世の植物分布,花粉変遷図の花粉群集組成及び花粉の組み合わせに基づいて,古気候推定に用いる花粉について再検討を行った. これらの結果,長さ218mコアの花粉分析から得られた花粉変遷図は,従来の結果では花粉帯を18帯に区分し,MIS2から19に対応すると推定していたが,MIS2から17に対応することが判った.また,新たに温暖な気候の指標としたCastanopsisとMallotusを用いて,各氷期・間氷期の古気候をより細かく比較・考察することを試みた結果,MIS5eは,現在のカトマンズ盆地とほぼ同じ気温かそれよりも温暖だったと推定した.同じ間氷期であるMIS7はMIS5eに比べるとMIS5eよりは気温が低かったと推定した。加えて,MIS3とMIS2の後半の退氷期は上記の間氷期ほど気温は高くなかったが,やや温暖な気候であったと推定した.最終氷期には,24kyr BP頃著しく寒冷・乾燥化したが,その後気候は一旦やや温暖化し,再び19 kyr BP頃寒冷・乾燥化する傾向が認められ,それは17.1m付近でPinusが急激に増加するピークで特徴づけられることが判った.これらの結果を一部は,論文および学会で公表した。
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