研究概要 |
近年,間伐が遅れ,放置された人工林が増加しており,林床の裸地化による水涵養機能の低下や土壌流出等を引き起こす森林の荒廃が問題となっている.しかしながら,どの林分が荒廃しでいるかを広域的に調査することは非常に困難であり,対策をたてる上で大きな障害となっている.一方,リモートセンシング手法は広域性,瞬時性,定期性といった長所から,これらの問題に対して非常に有効な手段と考えられるが,リモートセンシングデータが捉えるのは林床ではなく樹冠であるため,荒廃状態を樹冠の状態から推定する必要がある.そこで,本研究では,荒廃した人工林と健全な人工林の樹冠の特徴を明らかにし,リモートセンシングデータを用いた荒廃人工林の抽出の有効性を評価することを目的とした. まず,現地調査による林内環境の解析を基に,相対照度と下草による被覆率の関係から人工林の荒廃度を評価した.次に,現地での散水実験および土壌含水率の測定によって,人工林が荒廃するにつれて土壌の浸透能,及び含水率が低下することを確認した.さらに,現地およびPOT実験において採集した単葉の含水率を測定した結果,土壌含水率が低下するにつれ,ヒノキの葉の含水率も低下することが分かった.含水率の低下によって分光反射特性も変化し,葉の含水率と葉の水分状態を表す植生指標との間に良好な相関性があることを確認した,特に,可視・近赤外バンドを用いたRatio Water Index (RWI)がヒノキの葉の含水率の推定に対して,最も有意な相関を示した(r=0.86).しかしながら,ASTERデータから算出したRWIを基に,人工林を荒廃度別にグループ化した結果,有意な差が見られなかった.これは,単葉レベルで得られた関係を群落レベルに対して適用することが困難であることを示唆している.荒廃した人工林では,葉の含水率が低下していても;樹冠密度が健全な人工林に比べて高いため,群落としての葉の含水量に違いが表れない可能性がある.一方,葉の水分状態を表す植生指標ではなく,ASTERの熱バンドを利用することによって,有意な差を確認することができた.これは,荒廃した人工林と健全な人工林との樹冠密度の違いによる,林床の影響の有無に起因していると考えられる.これらの結果から、リモートセンシングデータを用いた荒廃人工林の抽出には、可視光・近赤外・短波長赤外バンドより,熱バンドを利用した方が有効である可能性が示唆された。
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