研究概要 |
平成18年度は、まず前年度までに行ったFe_xCO_<1-x>Siの分光測定(軟X線発光分光、真空紫外〜硬X線光電子分光)の結果を、研究協力者により提供されたバンド計算(LDA+U)による電子状態密度と比較して考察を行った。結論として、単純なリジットバンドモデルで説明されてきたこの系の電子状態は、構成元素の軌道成分に分けた部分状態密度ごとのリジットバンドモデルで考察する方がより適切であることがわかった。3d遷移金属(TM)がFeからCoに変わるに従って3d電子数が増加し、3dバンド全体は高結合エネルギー側にシフトする。一方、Si3pバンドは3dバンドほどにはシフトしない。その結果、もともと高結合エネルギー側に重心のあるSi3pバンドとの重なりはx=0のCoSiで顕著になり、TM3d-Si3pの混成が強まると考えられる。混成の結果、TM3d軌道からSi3p軌道へ電荷移動すると実験結果から予想された。 この予想を踏まえ、新たにTMをCr, Mn, Fe, Coと変化させたTM-Si(3d遷移金属モノシリサイド)を作製し、励起光に真空紫外光〜軟X線〜硬X線を用いた光電子分光を行った。Fe_xCO_<1-x>Siで結論された"部分状態密度ごとのリジットバンドモデル"がTM-Siでも適用できる結果が得られている。現在、最終的な結果の解析を行っている。 光電子分光実験において、励起光を真空紫外から硬X線の広いエネルギー範囲で行うことで構成元素の状態密度を選択的に調べることができる。これに軟X線発光分光測定を行うことで確度の高い電子状態密度の議論ができるようになった。しかし、ここ数年施設の老朽化などとあいまって、Siなどの軟元素の軟X線発光分光を行える実験ステーションが国内には無くなってしまっている。B-dopedダイアモンドなどで極めて興味深い結果が米国の施設を利用して得られており、シリコンウェハに蒸着したTM電子状態を調べるには、軽元素軟X線発光分光測定の環境整備が急務である。
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