研究概要 |
電気機器の高電圧化および高電界化が進み,その安全対策はきわめて重要な課題である.特に火災原因として知られる被覆電線などは,燃焼にあずかる高分子材である被覆部と心線である金属導電体とが極めて異なる熱伝導特性を有するため,思いがけない燃焼形態をとる.前年度(H17)では,電線火災を想定したモデルの下で燃焼実験(ショートを想定した着火)および数値計算(着火および燃え広がり)を行い,その特性把握を試みた.その結果,着火については解析結果と実験結果がよい一致を示したが,燃え広がりについては相当する実験(微小重力環境が必要)が困難であるために,解析結果の妥当性を検証することができない.本年度では,この燃え広がり実験の問題を回避すべく,相似則を用いて微小重力環境と輸送過程を同程度になるような「低圧空間」を用いて研究を展開した.なお,あまり知られていないが宇宙飛翔体や飛行機内部には低圧条件が課せられることが常であるため,この研究は航空機火災の安全性や宇宙開発の安全性を評価するものとして今後の展開が期待できる. 低圧空間では酸素量が減少するため,通常は燃えにくい(=燃え広がり速度が低下する)と考えられており,実際に過去の研究ではそういわれていたが,電線火災は研究例がない.実際に実験を進めていくと「低圧になるほど酸素が少ないにも関わらず燃え広がり速度は単調に増加する」ことがわかった.これは微小重力場と類似した結論であるが,酸素量の面からすれば素直に受け入れ難い事実である.心線を通じた熱伝導輸送がその大きな要因であり,実験結果から推測した熱収支によれば,未燃の高分子が受ける熱の半分以上が心線を通じた熱伝導であることがわかった.このように熱伝導1生の高いものの存在が,これまでの安全規格の概念を覆す可能性があることが指摘された.今後低圧火災についてさらに研究を進めていく予定である.
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