研究課題
若手研究(B)
哺乳類における嗅覚受容体(OR)多重遺伝子族の進化のダイナミクスを知るために、カモノハシ・オポッサム・ウシ・イヌ・ラット・マカクザル・チンパンジーのドラフトゲノム配列から全OR遺伝子を同定し、以前同定したヒト・マウスのOR遺伝子と共に分子進化解析を行った。遺伝子の系統樹をもとに、進化過程における遺伝子数の増減を推定する統計的手法を開発し、この手法をOR遺伝子に適用した。その結果、(1)単孔類・有袋類との分岐後に、有胎盤類の系統でOR遺伝子数の爆発的増加が起きたこと、および(2)哺乳類の異なる目に至る各系統で、数百もの遺伝子消失・獲得が起きたことが明らかになった。(2)は、哺乳類の異なる目の間で、OR遺伝子数の総数は類似している(約1,000)ものの、そのレパートリーは大きく異なることを示している。本成果はPLoS ONE誌に掲載された。また、ハーバード大学の郷康広研究員と共同で、マカクザル・チンパンジー・ヒトの間でのOR遺伝子の詳細な比較解析を行った。従来言われていた説とは異なり、ヒト・チンパンジー間では偽遺伝子化の傾向にほとんど差がないことを明らかにした。しかし一方で、ヒトとチンパンジーではオーソロガスな機能遺伝子が75%しか保存されておらず、OR機能遺伝子のレパートリーが大きく異なっていることも明らかになった。本成果は、現在Molecular Biology and Evolution誌に投稿中である。更に、社団法人バイオ産業情報化コンソーシアムと共同で、ヒトOR遺伝子のデータベースを作成し、ウェブ上で公開した。また、化学受容体の分子進化に関していくつかのレビューを執筆するとともに、Henry Stewart Talksシリーズで英語ナレーション付きオーディオ教材を製作した。以上の成果は、国内・海外の学会やシンポジウムで報告した。
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