申請者の属する研究室では、非重複のcDNAセット(国立遺伝研・小原雄治教授により供与)をRNA合成の鋳型として用い、四齢幼虫(L4)に対するsoaking RNAi法によって体系的遺伝子機能破壊を行ってきた。16年度までに約6000個の遺伝子についてL4RNAiを行った結果、724個(12%)がPO不稔(RNAi処理した虫が次世代線虫をまったく、あるいはほとんど産まない)遺伝子であった。本研究では、このPO不稔遺伝子のL4RNAi表現型を微分干渉顕微鏡により詳細に観察した。さらにPO不稔遺伝子が生殖腺特異的に働くものか、成長や形態形成にも必要なものかを調べるため、一齢幼虫に対するRNAi(L1-soaking RNAi)を行い、孵化後発生の表現型を調べた。約450個の遺伝子について表現型解析を行った結果、様々な生殖細胞形成異常が観察された。そのうち167個の遺伝子についてL1RNAiを行った結果、約85%の遺伝子が孵化後の表現型を示した。このことから、PO不稔遺伝子の多くが生殖細胞形成と孵化後の成長の両方に必要なことが分かった。また、孵化後発生表現型のほとんどが成長異常であったことから、PO不稔遺伝子の多くがすべての細胞活性に必要な遺伝子である可能性が示唆された。 また、大量の表現型情報の処理のため、表現型の体系的記述法を確立した。成長、形態、生殖細胞形成や受精および初期胚の異常を記録する表現型項目を設定し、各表現型項目を「present」「absent」「not applicable」のスコアで記述した。複数の項目の組み合わせで記述した表現型プロファイルはバイナリーデータに変換し、コンピュータを用いた遺伝子の機能的分類を行った。記録した表現型データベースを用いて表現型からの遺伝子検索が可能である。
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