研究課題
若手研究(B)
1.自伝的要素と文学作品のパスティーシュ『失踪』における自伝的要素は、『白鯨』、『盗まれた手紙』、『オイディプス王』、中世の『教皇聖グレゴリウス伝』と、それに基づくトーマス・マンの『選ばれし人』など、古今の文学作品のパスティーシュの形で忍ばされている。作者はユダヤ民族への迫害という自伝的契機を神話のかたちを借りつつ、『失踪』に反映させているのである。それぞれの文学作品が具体的にどのような自伝的参照として機能しているかについては、限られた紙幅において詳述することはできないが、いずれ論文のかたちで報告できるはずである。2.日本語訳のとるべき戦略本研究のもう一つの柱は、『失踪』の日本語訳がとるべきアウトラインを定めることであった。まず、日本語に課すべき制約をどう定めるかが問題となるわけだが、フランス語原典では、アルファベット26文字のうち、もっとも使用頻度の高いEの文字が排除されていた。日本語をすべてひらがなで書いたとき、もっとも高い頻度で現れる文字は「い」だという調査結果がある。そこでまず、日本語訳においては、「い」の文字を排除するのが妥当であると考えた。だが、ひらがなは48字もある音節文字であるから、日本語から「い」の文字だけを消すのでは、実際に引き起こされる「困難さ」という点で、フランス語のE抜きには遠く及ばない。そこで、文字「い」だけでなく、「い段」の文字をすべて抜くことを考えた。さらに『失踪』の翻訳において重要なのは、「欠如の参照システム」とでも名付けうる巧妙な仕掛をも翻訳することである。これは、本文中に不在であるはずの文字を、さまざまな手段によって喚起する方法であり、テクスト生成原理を自らのうちに内包するという、「メタテクスト的機能」の一種と考え得る。「欠如の参照システム」の日本語への翻訳例については、2008年度中に刊行予定の論文において詳述されている。
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L' Autre de I' oeuvre
ページ: 113-122
水声通信 20号
ページ: 100-106
Georges Perec : inventivite, posterite, Actes de colloque de Cluj-Napoca (Roumanie) Universite Babes-Bolyai
ページ: 273-285
水声通信 4月号(未定)(3月末刊行予定)