研究概要 |
平成19年度は,スペインおよびフランス出張時に蒐集した文書群の翻刻と読解・分析を進めながら,それに基づいた地域専門研究を手がけてきた。具体的な成果は以下のとおりである。 1.中世西欧封建社会の基礎細胞をなすとされる城主支配圏(シャテルニー)とそれを地誌的に肉付けする城塞化(インカステラメント)の本格的な形成が,古代的な社会構造から中世的なものへの変動を画する最大の現象の一つとみなされているなかで,征服と入植による高い空間的・社会的流動性を特徴とするスペイン農村がそれをいかなる形で経験したかを,ムスリムやキリスト教徒が混然一体となって争奪を繰り広げたエブロ川支流のシンカ川中流域を地理的枠組みとして具体的に検討し,論文を執筆した。 2.都市=農村関係と一般に呼ばれる研究分野が西欧中世史研究の一領域として認知されて久しいとはいえ,スペイン史研究では都市を農村史の主要な要素の一つとして扱う地域専門研究が不足している現状に鑑み,都市ウエスカ近傍の農地編成と所有関係の錯綜度を,現地で蒐集した約1500点の文書史料に記録された土地とその隣接物の質的・数量的分析により考察し,論文を準備しつつある。
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