研究概要 |
本年度の研究実施計画では3つの目標を掲げた。そのうち(1)エジプト民法における用益物権を根拠とする先買権の意義に関する補立的考察を,とくに近代法の継受の固有法(ここではイスラーム法) に対する影響という観点から行った。その結果,既存のイスラーム的な土地保有制度の解体を目的とした19世紀初頭のエジプトの政策が,その後まもなく始まった近代法の大々的な移植を背景に,近代的な私的所有権の確立として認識され,正当化されたこと,またその過程で,皮肉にもイスラーム法に由来する先買権が,私的所有権の確立という政策目的の一手段として存続させられたことが,かなりの程度明らかになった(拙稿「エジプトにおける土地所有権と先買権」『アジア経済』第48巻,2007,29-49)。(2)現在の先買権の機能については,今後の課題とする。(3)文献収集については,大英博物館(平成20年1月)およびカイロ大学法学部図晝館・パリ国立図書館(同2月末-3月初)において,エジプトにおける民法典制定直後の法概念に関するいくつかの貴重な資料を得(1)で言及した論文で示した仮説をほぼ裏づけることができた。すなわち,エジプト民法に関する従来の研究においては,現行エジプト民法典の主要な起草者であるサンフーリーによる同民法典の注釈や,彼が同民法典の編纂を主導するようになった段階以降の民法典編纂議事録が主たる資料であったが,エジプト民法の歴的考祭という意味ではこれら劣らず重要な,旧民法典の注釈や,またとくに先買権に関しては,現行民法典の前法にあたる先買権法の注釈である。これらの資料は私ま,少なくとも欧米の研究者の間ではほとんど活用されていなかったものである。総じて,英語もしくは日本語で少よくとも1本は論文を,学内紀要以外の学術誌に発表するという目的は達成した。
|