本研究では、browse-wrap契約という新しいタイプの契約手法に着目し、約款規制の新たな展開を調査・分析した。まず最初に、UCC第二編改正作業での議論の検証により、伝統的な約款論を整理したところ、(a)約款開示に着目して拘束力の範囲を確定する「採用規制」より(b)条項内容の不当性を理由に効力を否定する「内容規制」を重視し、専ら(b)にしか約款規制の意義を認めようとしない近時の行き過ぎた傾向に反発して、(a)の意義を改めて見直そうとする動きのあることが判明した。次いで、browse-wrap契約を巡る議論を精査した結果、それが出現する情報取引では、(a)の意義を尊重する姿勢が、より一層強い形で現れていたことが明らかとなった。すなわち、web上に規約を掲載し一方的に当該規約に拘束力がある旨宣言するたけでは十分な開示がないので、かかるbrowse-wrap契約の成立は認められないとする立場が、例えばTicketmaster Corp判決やSpecht判決で繰り返し打ち出され、これを支持する見解が支配的となっていたのである。このように(a)採用規制の約款開示を重視する姿勢が顕著になっているのは、第一に、取引の情報化の下でも伝統的な約款論が前提とした「約款=契約」の図式が普遍性を持つ揺るがぬ原理として定着していること、第二に、取引が情報化すると、紙ベースの約款書が取り交わされないがゆえに契約条項または契約締結それ自体さえ知ることなく当事者が契約に拘束される危険性が高まり、契約ないし契約条項に対する当事者の認識可能性の確保がより一層必要になっていること、以上二点の理由によるものと本研究では結論づけた。なお、以上のような分析・検討を含め、以下の雑誌論文で本研究の成果の一部を公表している。
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