本年度は、ヨーロッパ人権条約とフランス民法との関係に関する総論的研究と各論的研究双方を行うことができた。当初の研究目的に沿う形で成果が達成できたと考えている。 1 総論的研究 総論的問題として、「ヨーロッパ人権条約がフランス家族法に与える影響--法源レベルでの諸態様」という論文を発表し(日仏法学24号、校正済み)、同条約がフランス立法府に与える影響、司法裁判所に与える影響を、それぞれ具体的な問題を出発点に考察した。 また、「家族法と人権」(水野紀子・小田八重子編『現代家族法実務大系 親族I』)(新日本法規、2007年刊行予定))という論文(原稿は提出済み)では、家族法の領域においても「人権」という言葉が用いられることがあるが、人権概念の淵源にあるであろう「自然」という言葉の意味・用い方が1970年代以降変化しているのではないかという問題提起を行なった。この論文も、フランスでのヨーロッパ人権条約をめぐる議論状況に大きく依拠している。 2 各論的研究 各論的問題として、離婚後の親権の帰属や居所の指定に際し、特定の少数宗教の信者であることにより不利に扱われることが平等原則に反するか否かという問題について、ヨーロッパ人権裁判所裁判例の研究を行なった(「離婚に伴う子の処遇と平等原則--エホバの証人をめぐるヨーロッパ人権裁判所裁判例を参照して」) また、フランスはヨーロッパ人権裁判所の条約違反判決をきっかけとして、子の相続分の平等を徹底する法律改正を2001年に行なった。既に検討したことのあるテーマではあるが、以前検討が不十分だった点を補充する形で再度考察を行なった(「水野編『家族--ジェンダーと法』所収)。 3 その他 また、ヨーロッパ人権条約と密接な関係を有する、欧州憲法条約の問題についての翻訳も発表した(「欧州憲法条約の争点と国内の政治討論によるその浸透(1)」)。
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