研究概要 |
1.本年度は,非期待効用理論における動学的整合性を2段階くじ(アクト)に関する選択(選好)の満たすべき性質に関する論文としてまとめ,各学会で報告するとともに,学術雑誌への投稿を行った。 2.経済学では,リスク・不確実性に関する選好を,効用の数学的期待値で表される期待効用理論で表現することが多いが,いわゆるアレのパラドックスやエルスバーグのパラドックスなど,現実には期待効用理論に矛盾する経済行動もしばしば観察されるため,そのような状況を分析するために近年さまざまな非期待効用理論が提案されてきた。一方,非期待効用理論では,事前に最適であった行動が事後的には最適にならないという動学的非整合性の問題が生じることが指摘されているが,このことにより非期待効用理論を時間を通じた経済行動の分析に適用することが困難になる可能性がある。したがって,本研究課題では,動学的整合性の要請を弱めることにより,非期待効用理論の一つであるショケ期待効用理論が(弱めた意味での)動学的整合性を満たす条件を特徴づけたところに意義がある。 3.具体的には,各期に生じる不確実性に関する選好がショケ期待効用理論で表現されるとき,還元公理(reductionaxiom)や後向き帰納法公理(backward induction)のいずれかを弱めることで確率容量が指数関数で表されるショケ期待効用理論を得られること,およびその選好表現が弱い意味での動学的整合性を満たすことを示した。
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