研究概要 |
自動車交通安全規制政策の有効性と効率性についての実証研究を行った.以下の2点について成果を挙げた. 第一に,自動車検査制度(車検)が安全規制としてほとんど意味のないことを明らかにした。この事実は次の2つの研究によって示された.まず,車検の導入前と導入後の事故率を比較した.その結果,導入後に事故率が低下したという仮説は統計的に棄却された.次に,車検を受ける年に事故率が低下したかどうかを調べた.やはり事故率は低下していなかった.これら統計的な分析には,データや分析手法の問題がつきものである.しかし次の事実から,車検が安全規制として有効でないことが明らかであることを示した:交通事故の大半は運転者の不注意や速度超過などによって起きており,整備不良に起因する事故の割合は1%を大きく下回る水準でしかない.車検には莫大なコストが費やされているから,この研究の政策的示唆は大きいと信じる. 第二に,道路混雑と交通事故の関係を明らかにした.道路が混雑すると,交通事故が増える可能性がある.問題は,ドライバーは発生した事故コストの一部しか負担しない点である.経済学ではこれを「外部性」という概念で捉えるが,その「外部性」の大きさを都道府県ごとに計測した.その結果,例えば大阪府では年間1台当たり20万円程度の事故外部性が発生していることがわかった.このことは,大阪府では追加的に年間1台当たり20万円程度の税を課すことで,社会的に発生する事故のコストを本人に負担させることができることを意味する.
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