研究概要 |
今回の調査を通して,家族と援助者ではそれぞれが考える家族役割意識にずれがあることが明らかになった.援助者側としては家族に勝るものはないという思いがある.家族としては,「全て施設にお任せすべき」という規範的意識が強い.この点で両者の家族役割意識にはずれが見られた. さらに,家族役割の代替性の点で両者の間にずれがみられた.援助者が家族に対して期待する最大の役割は,面会によって入居者の情緒的安定を図ることである.両者とも面会によって入居者が情緒的に安定することは意識しているものの,家族の役割を援助者が代替できるかどうかについては,両者に意識のずれがあった.家族は,援助者が家族役割を代替できると考え,援助者はその割合が低い.そのずれは,相1手が十分対応してくれていないという誤解につながり,苦情に発展する要素を含んでいると考えられる.さらに,援助者は,入居者が十分に意思を伝えきれていないと考え,日々悩んでいる.この点に関しては,家族と援助者ではずれがみられた.これらのずれを明らかにし,共通理解のもとで入居者を支えることがケアの充実のためには不可欠であろう. 介護保険制度による「介護の社会化」の進展は,家族機能の外部化(externalization)とともに,その一方で「家族に何ができるのか」という極めて現実的な問いを投げかける.家族が介護するより専門家に任せた方がよい,施設は専門家がいるからそこに預けたらいいという議論は,時に入居者を家族システムから切り離してケアすることにつながる.「介護の社会化」や「家族機能の外部化」が進むいまこそ,施設ケアにおける家族が持つ「存在意義」や「役割」を捉え直す必要がある.そのうえで,両者の役割意識のずれを埋めながら,いかにして入居者を支えられるか,さらには,家族関係を維持し,家族システムの中で入居者を支えることのできる援助システム構築が求められると言えよう.
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