研究概要 |
1.研究の具体的内容 本研究では,従来「閉じこもり」など高齢者の外出行動の関連要因とされてきた身体・心理・社会要因に加え,居住地と生活圏の広がり,交通手段など地域のありよう等の環境要因の影響を明らかにすることを目的とした.自治体施設の利用,高齢者の「閉じこもり」割合,の2つについて環境要因の関連を検討した.自治体施設の利用と環境要因の関連の検討は,愛知県の1自治体を分析対象として行った.保健センター等の施設の利用状況に関連する要因として施設への距離,交通手段の2つの環境要因を検討した.自治体施設の利用は男女とも,施設までの距離が短いほど有意に多かった.女性では交通手段が豊かなほど利用が多かった.高齢者の「閉じこもり」割合と環境要因の関連の検討は,愛知県の10自治体を対象地域として行った.外出頻度の少ない「閉じこもり」と小学校区単位の環境要因(人口密度を指標とした)の関連を検討した.人口密度が低い小学校区ほど,外出頻度週1回以下の「閉じこもり」の者の割合は多いという有意な関連が示された(Spearmanの相関係数は-0.60) 2.意義・重要性 高齢者の外出行動への環境要因の影響を明らかにした本研究の成果は,介護予防において必要性が強調される,ハイリスク・ポピュレーションの両戦略に対し示唆を与えると考えられる.ハイリスク戦略は,要介護リスク者を「特定高齢者」として把握し,介護予防事業への参加を進めるものである.この特定高齢者は全国一律で全高齢者の5%以内とされているが,「閉じこもり」の割合に環境要因による地域差があるという本研究の結果は,不利な地域への対策の必要性を示唆する.一方ポピュレーション戦略は,非「閉じこもり」がら「閉じこもり」への移行を防ぐ一次予防を目指し地域全体へ介入するものであるが,地域の介入すべき要因を明らかにした本研究の結果は介入事業のヒントになると考えられる.
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