研究概要 |
本研究では,平成17-18年度の研究成果を踏まえ,他者の目標指向性理解を測定する3つの模倣課題を作成し,1歳児(平均月齢19ヵ月2日)計35名を対象に実験を行った.この35名を2群に分けた;母親群(16名)では,母親が,他者群(19名)では,被験児にとって見知らぬ他者がターゲット行為(模倣される行為)を提示した.この2群間における模倣反応の差異と課題間の相関を分析し,生後2年目における他者理解の様相,とくに学習すべき情報の提供者としての他者の区別について検討した. 実験は,静岡県袋井市内の保健所と子育て支援センターで,保護者の同意と同伴のもとで行った.各実験では,母親もしくは実験者が次の3つの対象操作を被験児の目の前で実演し,直後に被験児に同じ対象を渡したときに,行為の模倣がおこるかを調べた.1つ目の課題で提示されたのは,ライトのスイッチ(箱のふた)を額で押し,ライトを点灯させる行為であった.2つ目の課題で提示されたのは,箱の前面の取手を回転させて,箱のふたを開け,箱の中にある筒に棒を差し込むという行為であった.3つ目の課題で提示されたのは,イヌのおもちゃをはねさせる,またはすべらせるように動かす行為であった(最後にイヌを家に入れる条件もあった).実験終了後,2名の評定者がビデオ記録を用いて,実験中の被験児の模倣反応を得点化し,分析を行った. 実験の結果,両群の模倣得点に全体的な差や課題間の相関はみられなかった.しかし,ライト点灯課題では,母親群の得点が有意に高かった.他の2課題でも,有意ではないが同様の傾向が見られた.見知らぬ他者の行為よりも母親の行為が模倣されやすいという結果は,一見自然であるが,17年度に筆者がおこなった2歳児を対象にした実験とは逆の結果である.これが模倣行動一般にあてはまる発達的傾向なのか,課題固有の反応なのかについて,更なる検討の必要がある.
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