研究概要 |
本研究は,幼児と母親のコミュニケーション成立について,母親のことばかけ,とくに母親が行う子どもの代弁について縦断的発達という観点,および,通文化的観点から検討することを目的としていた。これまで,国内の調査で、母親の発話を4つの代弁形式(子ども視点型、母子視点型、あいまい型、移行型)および非代弁に整理し,月齢推移との関連で,検討を行ってきた。昨年度までの分析では,縦断的には,生後0ヶ月から9ヶ月にかけて増大するが,生後12,15ヶ月には代弁が減少することがわかっている。本年度は,英語圏(オーストラリア,カナダ)の親子のコミュニケーションの分析を進めた。英語圏で得られたデータは,渡航の時間的制約から横断データであり,月齢を国内データと対応させることが難しかった。そのため,数量的な議論は難しいが,日本国内のデータにおいて多い月齢で,母親の発話のうち約1/3が代弁であるのに対し,英語圏では代弁が観察されるもののわずかであった。また,そのなかでも,アジア圏出身のひとりの母親は英語でのやりとりではあったが,代弁やそれに近い共感的な発話がみられた。その親子のデータを質的に検討すると,状況的には,子どもの状況や内的状態を言語化した代弁や観察者に対しての代弁などであり,国内データで観察されている代弁に近いものであった。この結果が英語圏を代表しているかどうかは,今後のさらなる分析を待つ必要がある。 一方で,英語圏のデータを分析するためには,英語圏の文化に精通していなければ解釈が困難な状況が多く,今後は,英語圏の研究者との共同研究というかたちで,より深く英語圏のデータを分析することを目指す。
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