研究概要 |
教育や心理学の分野の研究で広くみられる,集団単位での標本抽出によって個人が集団にネストされているデータや,縦断的研究などの反復測定によって各測定時点が個人にネストされるデータなどの階層的構造をもつデータに統計的分析を適用する上での指針を与えることを目的とした。 今年度は,階層構造を持つデータとして,反復測定データをとりあげた。反復測定データの中でも最も単純でかつ研究例も多い「事前-事後」の2時点における測定に焦点を当て,実験群と統制群の間で事前から事後への変化の大きさを比較して処理効果の有無を検定する実験デザインを想定し,統計モデルの適用上の問題として主に検定力およびサンプルサイズの観点からの検討を行った。 まず,反復測定の実験データにおける処理効果の検定を行うことのできるモデルとして,潜在曲線モデルの枠組みを用いる潜在曲線モデルに着目した。このモデルによる検定においてサンプルサイズを決定するために検定力分析を行う際に用いられるべき効果量の指標の理論的導出を行った結果,2時点の実験データの場合に関しては従来の検定力分析の枠組みにおいて共分散分析に対して適用される効果量の指標と同じものを用いればよいことが明らかになった。 次に事前-事後の実験データに適用可能なモデルとして従来用いられてきた方法である共分散分析と,新しい方法である潜在曲線モデルを用いた検定の比較を行った。潜在曲線モデルを用いた検定は非常に柔軟であり,モデルに制約を加えることで共分散分析とほぼ同じ条件で同一の仮説を検定することができる。そのような検定において,小・中・大の各効果量のもとでの検定力曲線を求めた。それによって,共分散分析を適用するための前提条件を満たしているデータに対しては,潜在曲線モデルを用いた検定よりも共分散分析の方がはるかに高い検定力を確保できることが明らかになった。
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