研究概要 |
本年度は、昨年度までに、いわゆる"健常な"大学生(非臨床群)を対象として行った箱庭制作調査と制作者による体験の語りをデータとして行った質的分析をベースデータとして、研究代表者がこれまでに臨床心理士として関与した臨床事例におけるクライエント(臨床群)の体験の比較分析を行った。その結果、非臨床群の制作体験には出現していなかった臨床群に特有と考えられる体験のあり方が浮き彫りとなり、またそこで見られた特徴的な体験のあり方が、そのクライエントが、臨床の場を訪れざるを得なかった心理的課題と密接に関連しており、クライエントを見立てる有効な手がかりとなり得ることを示すことができた。 また、こうした比較分析を通して、制作者の体験からみた「治療的要因」について検討したところ、箱庭の用具そのものやセッティングそのものに治療的要因があるというよりも、そうしたセッティングがあたかも治療的要因を持つかのように体験することを可能とする制作者自身の心の機能にこそ「治療的要因」の本質があるのではないかと考えられた。こうした点については、臨床心理学のみならず、進化心理学の観点からみた「感覚」に関する議論(Humphrey,N.,2006)や、神経心理学の観点からみた「触覚」と「視覚」の曖昧さに関する議論(Armel,K.C.&Ramachandran,V.S.,2003)、またイメージを「仮想的身体運動」として捉える視点(月本ら,2003)などとも矛盾なく馴染むのではないかと考えられた。
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