研究概要 |
観察者自身の行動(身体運動と眼球運動)が自己運動知覚にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的として研究を行った。 昨年度は,眼球運動情報がベクション(視覚誘導性自己運動知覚)と視覚性姿勢動揺に及ぼす影響,頭部運動が視野の安定性に及ぼす影響について検討した。今年度は,それぞれのテーマについて統制実験を含めて,知見の実証性を高める研究を行った。特に,眼球運動情報とベクションに関しては,微少眼球運動をシミュレートするジター成分が,速度知覚そのものに与える影響を測定し,それとベクションに及ぼす影響との比較を行った。この実験の結果,加算ジター成分はオプティカルフローそのものの速度知覚に影響し,見かけの速度を上昇させるが,それはベクションの促進とはほぼ関係ないことを明らかにした。ジター成分によるベクションの促進は,眼球あるいは頭部運動の自然さあるいは視覚情報の不安性によるのではないかと思われる。 また新規に,運動指令と固有受容感覚がある「実眼球運動条件」と全く同じオプティカルフローが網膜に投影される「視覚的眼球運動シミュレーション条件」を用いて,ヘディング(進行方向)知覚と視覚性姿勢動揺の比較検討を行った。この実験の結果,ヘディング知覚と同様に視覚性姿勢動揺も実眼球運動運動とシミュレーション条件で違い見られ,視覚情報のみでなく,網膜外眼球運動情報(眼球運動の固有受容感覚)が利用されていることが示唆された。 このように,本研究プロジェクトでは,自己運動知覚(視野の安定性,ヘディング,ベクション,視覚性姿勢制御など)は,観察者自身の運動(眼球運動や身体運動)の情報を考慮し,統合的に生じていることを明らかにした。
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