研究概要 |
本年度も初年度に引き続き,自律神経ユニットおよび視線検出ユニットによる身体反応検出を目的とした複数の実験的検証を行った.用いた課題は,1)高次感情学習課題,および2)視線検出課題である.1)は,高次感情学習に伴う身体反応の影響を調べることを目的としており,社会的状況と複雑表情を結びつける能力に焦点を当てた.初年度は主に行動実験により,健常者に加え,脳の特定部位の損傷を持つ症例やアスペルガー症候群の症例を対象とした実験を行った.本年度は,それらの症例数を増やしたことに加え,顔の認識障害を呈する相貌失認の症例を対象とした実験も行った.さらに,結果の妥当性を検討するため,健常者を対象とした機能的MRIを用いた実験も行った.その結果,前頭葉損傷により,課題成績が低下すること,相貌失認においては,全体処理が低下するために,結果として健常者以上のパフォーマンスが呈されることなどが明らかになった.また,機能的MRIの結果からは,上記の前頭葉損傷のあった部位がこの処理に重要な役割を果たしていることが明らかになった.また,2)においては,視線認知において重要な役割を果たすとされる上側頭部および扁桃体の損傷を持つ症例を対象とした検討を行った.その結果,上側頭部の損傷に伴って,視線認知の処理が低下することが示され,それを眼球運動の計測をすることにより,深く理解できた.1)と2)の実験,および昨年度の3つの実験を通して,情動と記憶の身体関連性に関するさまざまな結果が得られ,脳のいずれの部位が我々の情動や社会性の実現に寄与しているかを深く理解することができ,社会的認知神経科学研究の領域に大きく貢献できるような結果を示すことができた.
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