研究概要 |
行為遂行能力(計画力,抽象的思考),判断力・問題解決能力は,認知症で低下する認知機能のひとつだが,こうした能力は臨床的診断では重視されながら,認知テストバッテリの観点からは,記憶・言語機能に比べ,これまであまり検討されていない.しかし,先行研究から,記憶,言語機能の低下は病理的変化,健常老化の双方で示されるが,抽象的思考は健常老化では維持され病理的変化(認知症)で特徴的に低下が示される認知的側面である可能性がある.本研究は高齢者を対象とした簡便な抽象的思考能力評価尺度を開発することを目的とし,昨年度は健常高齢者を被験者として抽象的思考課題として,「理解」「積木模様」「類似点」「相違点」から構成される21項目を選定した.本年度は100歳以上の超高齢者13名のデータについて,抽象的思考能力課題21項目のうち,データに不備のなかった18項目について比較・分析を行った.全体の得点を比較すると,70歳代,80歳代の高齢者に比べ超高齢者群で得点が低かった.しかし,項目ごとに正答者数を比較すると,「理解」の全項目で高齢者群と超高齢者で差がなかった.また,「積木模様」では,完成所要時間による得点ではなく,制限時間内で正答できたかどうかで比較したところ,4個の積木を使用する課題では,6項目のうち4項目で差がなかった.その一方,「類似点」「相違点」および「積木模様」の9個の積木を使う項目では,超高齢者群で正答者数が少なかった.すなわち,選定された項目のうち10項目では差がなく,残りの8項目で差が示される結果になった.抽象的思考能力は加齢の影響を受けにくいと考えられたが,超高齢期には能力によっては影響を強く受けることが示唆された.
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