今年度の研究としては、文法指導における生徒の自己関与という概念に着目し、認知心理学、および、第二言語習得研究における関連概念を取り上げ、文法指導における生徒の自己関与の重要性を理論的に整理し、どのように文法規則を生徒に提示すべきか、その指導ポイントを検討した。そこで、「自己準拠」、「自己生成」、「自己選択」、「文法選択」、「偶有性」、「間主観性」といった6つのキーワードで、文法規則の提示方法のあり方について文献をもとに考察した。 その結果、文法指導における生徒の自己関与とは、(a)新しく学習した文法を学習者自身に関連付けること、(b)文法を使って自分で文を作り出してみること、(c)その文法に関連した文脈やトピックを学習者自身で選び取ること、などであり、実際の指導場面においては、(d)どのような場面で何のためにその文法が使われるかを具体的にイメージさせ、文法の形式・意味・使用が直結的に結びつくような文脈を生徒に提示したり、それを考えさせたりすること、(e)習った文法を使わせる活動として、初めから決まりきった情報を表現させるのではなく、予想できない部分のある情報を表現させるものを工夫すること、(f)生徒が習った文法を使ってメッセージを表現してみたいと思わせる活動を作り出し、表現したいがうまくできない生徒の状態を的確に教師が捉え、その瞬間を見逃さずに適切な文法指導を行っていくこと、などが考えられる。それらが、文法学習への生徒の動機と集中を高め、新しく習った文法事項に対する生徒の主体的な気づきを促し、実際の言語使用場面で使える文法知識を育成する文法指導を考えるポイントになることを考察した。このような自己関与の特徴とその役割を教師が理解することにより、文法指導の内容に工夫を持たせることができると同時に、明確な目的をもって効果的な文法指導の実践につながる可能性を示唆した。
|