研究概要 |
複素数体上の準射影多様体上のTame harmonic bundleのKobayashi-Hitchin対応についての研究を主に行いました.もう少し精確に述べると,射影多様体Xとその正規交叉因子Dの組上のフィルトレーション付正則\lambda-平坦束が与えられると,そのX-Dへの制限にはパラボリック構造に適合する多重調和計量が存在することを示しました.前年度までに行ったHiggs束(\lambda=0)とTame harmonic bundleの対応についての研究によって,D上に誘導されるHiggs束のresidueが交叉点において適当な両立条件を満たす場合には,そのような対応が得られていました.今年度の研究では,まずHiggs束の場合にこの両立条件をはずしました.そのために,因子D上に与えられているフィルトレーションを摂動したものに対してHermitian-Einstein計量の存在を示し,こうして得られるHermitian-Einstein計量の列の極限をとることによって,与えられたHiggs束に対する多重調和計量を構成する,という方針を導入しました.この結果について8月に行われた代数学シンポジウムで講演し,プレプリントDG/0411300の改訂版にまとめて発表しました.引き続き,\lambdaが必ずしも0でない場合について研究しました.上と同じようにD上のフィルトレーションを摂動したものについてのHermitian-Einstein計量の極限を考えるのですが,エネルギーの局所的な一様有界性が容易には得られないために,収束を示す部分でHiggs束(\lambda=0)の場合とは異なる議論が必要になりました.そこで,基本となる曲線上での収束から再検討することで,この問題を解決しました.また,この研究によって\lambda-平坦束やフィルトレーション付局所系に関するBogomolov-Gieseker型不等式が得られました.これらの結果をプレプリントDG/0602266にまとめて発表しました.また,Ecole Polytechiniqueの"Seminaire Arthur L.Besse"において,これらの結果について講演しました. これ以外に,Tame harmonic bundleについてのL2-コホモロジーと交叉コホモロジーの関係について研究し,\lambdaがgenericなところでは同型であることを示し,東京大学トポロジーセミナーで講演しました.しかし,genericでない部分についても興味があり,\lambda-平坦束のextensionや(存在が期待される)"混合ツイスター加群"との関連について,より理解を深めていくべきだと考えられます. 上記で触れた講演以外に,アメリカのシアトルにおいてAMSとClay Instituteが開催した代数幾何学のサマースクールで講演(Seminar Talk)し,上で触れたHiggs束に対するKobayashi-Hitchin対応についての結果も含めて,Tame harmonic bundleに関するこれまでの研究成果について報告しました.
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