研究概要 |
本年度は結び目のダイアグラムの局所変形とAlexander多項式の関係に関する研究,局所変形とダイアグラムの交点の符号との関係に関する研究を行った. 結び目のダイアグラム上のタングルダイアグラムを別のタングルダイアグラムで置き換える操作を局所変形という.単純なものは交差交換や交点の平滑化などで,一般に結び目のタイプを変える.一つ局所変形のパターンを固定し,その局所変形が結び目の幾何的,代数的性質をどう変化させるか調べることは本研究での課題の一つである.本年度は特にパス変形とデルタ変形に関する研究を行った. 中西康剛氏との共同研究で,パス変形と呼ばれる局所変形を一回施すことによって解ける結び目で任意のAlexander多項式が実現できるかを調べた.これは交差交換一回で解ける結び目で任意のAlexander多項式が実現されるという事実の一般化の一つである.完全解答は得られなかったが,次数4までの多項式は実現され,より高い次数の多項式に関しては,4次の係数のみが2次の係数にのみ依存するが,他の係数を実現する結び目が存在することを得た.実際に任意の多項式の実現が不可能という証明も得られていないため完全解答は今後の研究課題である.ここまでの結果をまとめ,国際研究集会「Knotting Mathematics and Art」において申請者が口頭発表した. 一般にダイアグラムの交点には正と負の2種類が現れるが,正のみで描かれるダイアグラムを持つ結び目を正結び目という.この正結び目に対し,デルタ変形と呼ばれる局所変形一回で解ける正結び目は右手系三葉結び目しかないことを示した.申請者は以前,交差交換一回で解ける正結び目の特徴付けを行っており,これはその一般化の一つである.得られた結果は研究集会「結び目のトポロジーX」で口頭発表し,現在論文にまとめている.
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