研究概要 |
曲面の写像類群の中で最も一般的かつ重要なタイプはpseudo-Anosov(pA)であり,このタイプの写像類は代表的な2つの不変量をもつ.一つはpA写像のエントロピーであり、もう一つ写像トーラスの双曲的体積である.写像類のある種の複雑さを測る量であるこれらの不変量が、互いにどのような関係であるかを明らかにするのが本研究の目的であった. 無限個のファイバー構造を許容するような3次元双曲多様体を固定する.このとき,各ファイバー構造に対して定まるモノドロミーはpAである.従って,ファイバー曲面ごとにエントロピーが定まる.このようにして得られるエントロピーの集合を多様体のエントロピースペクトラムとよぶ. 数値実験をみると,曲面を固定したときに,小さいエントロピーを持つ写像類は小さい体積をもち,またのその逆も成立していることが観察される.この性質を具体的に調べる為に,小さい体積をもつ,ある一つの多様体Mのエントロピースペクトラムを具体的に計算した.その結果,Hironaka-Kinによって考察された,小さなエントロピーをもつ組ひもの無限列は,Mのファイバー構造のモノドロミーになっていることがわかった. 本年度は,一つの多様体を固定し,そのエントロピースペクトラムを計算したが,ここで行った考察は一般の多様体のスペクトラムについて理解する大きなステップになると考えている.
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