研究概要 |
宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部が中心となって開発を続けてきたあかり衛星が2006年2月に打ち上がった。あかりに搭載されている近・中間赤外線カメラ(IRC)を用いて、NGC104と呼ばれる球状星団の波長3,4,7,9,11,15,18,24ミクロンの観測を行った。NGC104は南半球で見られる巨嘴鳥座に存在する、百万個程度の星が球状に集まった星の集まりである。この球状星団は現在から約110億年前に出来たもので、寿命の短い重い星達は既に死に絶えており、現在星団内に存在し今明るく輝いている星は、ほぼすべてもともと太陽とほぼ同じくらいの質量であった星達である。太陽は現在約50億歳で、この球状星団で今明るく輝いている星は太陽の約60億年後の未来の姿を表している。太陽よりも60億年歳をとっているため、これらの星は燃料である水素を使いきり、赤色巨星となっていて我々の太陽とは違う進化段階を迎えている。恒星進化の理論は、赤色巨星となった太陽はその後自分の質量の4割くらいを宇宙空間に放出し、最終的には元々あった質量の6割程度の質量を持った白色矮星になると予測しており、この現象を質量放出と呼ぶ。質量は星が輝くための燃料であるから、質量放出がどの進化段階でどれくらいの規模で起こるかによって、その後の進化の状態が変わる。また放出された物質は星間物質の進化に影響を与える。質量放出の過程は、星の進化を理解するだけでなく、銀河の進化を理解する上でも非常に重要である。質量放出している星は、放出した物質を暖め、赤外線で明るく輝く。理論的には赤色巨星の初期段階から質量放出が起こることが予想されています。しかし、赤外線観測によりこれまで多くの質量放出星が検出されてきたが、すべて赤色巨星の最末期にある星ばかりで、初期段階にある星から質量放出を見つけた例はなかった。あかり衛星による観測により、我々は赤色巨星の初期段階で質量放出をしている星を発見した。この観測結果から、赤色巨星の初期段階にある星も質量放出をしていることが観測的に初めて確認された。また、この星と同じ進化段階にあるのに質量放出をしていない星も多数みつかっており、初期段階での質量放出は定常的ではなく間欠的、しかも短時間に起きている事が示唆さる。さらに、6つの波長のデータを詳しく調べた結果、初期段階で放出される物質の性質が最末期における物質とは違うこともわかった。今後、更に詳しくデータを解析し、現在の恒星進化理論と観測結果を比べる事で、太陽がこの先どのように進化していくのか、また、太陽の進化が惑星系に及ぼす影響等について明らかになると考えられる。
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