研究概要 |
メルボルンの研究グループが開発した現代的な原子核内2核子有効相互作用を用いて、核子-原子核の弾性散乱を純理論的に記述する試みを継続して行った。前年度の研究成果により、弾性散乱を簡便に記述する近似法の精度と有効適用領域が判明したため、今年度は実際にこの手法を用い、不安定原子核と陽子の弾性散乱の記述を行った。 研究対象とする不安定原子核は、ニッケル同位体、^<58,68,78,88>Niとした。これらの原子核の密度分布は、九州大学の清水良文准教授の協力を仰ぎ、最新の核構造計算であるハートリーフォックーボゴリューボフ法によって求めた。分析の結果、陽子とニッケル同位体の弾性散乱から、ニッケル同位体の密度分布(拡がり)が確かに抽出できることを確認した。 次に、重陽子とニッケル同位体の散乱の分析を行った。陽子-ニッケルおよび中性子-ニッケルの相互作用を、上述の方法で理論的に求め、3粒子系(陽子+中性子+ニッケル)の動力学は、九州大学が約20年前に開発した離散化チャネル結合法を用いて記述した。分析の結果、重陽子-ニッケルの弾性散乱は、陽子-ニッケルのそれと比較して、有意の付加情報を与えることができない一方で、重陽子が陽子と中性子に分解した状態(それらの放出方向が揃っている状態)を観測・解析することによって、ニッケル同位体中の陽子と中性子の密度分布の差を引き出し得ることが明らかになった。 陽子と中性子の密度を選択的に引き出す手法の構築は、不安定原子核の研究の推進にとって極めて有用である。本研究により、核子と原子核の弾性散乱(及び相互作用)を理論的に記述する試みと、伝統ある反応計算法との有機的な結合が、不安定核研究にとって本質的に重要な成果へと結実したと考えられる。
|