研究概要 |
1.遅い中性子捕獲反応過程(s過程)による元素合成計算を行い、r+s星と分類される星の組成パターンについて研究した。r+s星ではs過程で主に合成されるSr, Y, ZrやBa, La, Ce, Nd、そしてPbなどの元素が観測されている。また、Euの量がs過程で予想される合成量に比べて非常に多いという特徴がある。本研究では、多くの中性子捕獲元素が観測されている12天体の組成パターンと計算結果とを比較することにより、過剰なEuの起源と組成パターンの特徴を調べた。その結果、Euの過剰さはEuやSmの中性子捕獲反応率の不確定性に起因するものではなく、Euなどの重元素を多く含むガスとの混合に因るものであることを明らかにした。そして、Euの過剰さを超新星爆発に起源をもつr過程に因るものであると仮定すると、観測された組成パターンを極めて良く再現できることを示した。また、r過程元素を含むガスとの混合による影響が顕著に現れる元素としてEuの他にOs, Ir, Ptや原子番号Z=41-55の元素があり、r+s星やs-rich星においてこれらの元素の分光観測の重要性を指摘した。 2.捕獲反応率依存性を調べるために、Bao, et. al. (2000)とJENDL-3.3を使用してそれぞれの組成パターンを計算し比較した。その結果、パターンの違いはごく僅かであることを明らかにした。 3.金属欠乏AGB星のモデル計算からリンまでの軽元素の結果を用いて、AGB星表面からこれらの元素の放出量を計算し、伴星の表面組成に与える影響を調べた。その結果、1〜8倍の太陽質量のモデルのほとんどでLiを大量に合成し、伴星でのLi量がビッグバン元素合成で予測される量よりも多くなる可能性を初めて指摘した。また、AGB星から伴星への質量移動により出来たと考えられる星の組成パターン(Li-Si)をこれらのモデルが非常に良く再現できることを示し、観測の無かったF, Naや炭素同位体比の予測を与えた。
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