研究概要 |
カーボンナノチューブの不純物散乱に起因する磁気伝導度を強束縛模型に基づき数値的に計算した.常に金属であるアームチェア型と金属と半導体のどちらかの伝導性を示すジグザグ型について調べた結果,金属と半導体で結果を分類できるとした研究計画時の予想とは異なり,アームチェアとジグザグという型による分類が可能であることが明らかになった. 磁場がチューブ軸と平行な場合,常に金属となるアームチェアナノチューブに対しては磁場を増大することにより伝導率が低下,つまり,正の磁気抵抗が得られた.これは,ゼロ磁場において不純物ポテンシャルによる後方散乱が抑制される機構が破れることによる.対照的に,金属ジグザグナノチューブでは10テスラ程度の強磁場であっても伝導率は増大し,負の磁気抵抗を得る.このチューブの構造に依存した振る舞いは有効質量方程式によれば電子のエネルギー分散の異方性を与える高次の補正項により説明される.その補正項はアームチェア型の場合には先に述べた後方散乱抑制機構に影響を与えないが,ジグザグ型では,小さいながらも,散乱を生む原因となる.軸に平行な磁場はこの補正項を相殺し,散乱を減少させることで負の磁気抵抗を生じる.半導体ジグザグチューブの場合も同様に,エネルギーギャップを生む有効磁束と印加した磁束が相殺することで負の磁気抵抗が実現する.磁場がチューブ軸と直交する時はアームチェア・ジグザグのどちらの場合も伝導率は減少し,正の磁気抵抗が得られた.これはランダウ準位の形成過程で分散が平坦化し,電子の群速度が低下することが原因と考えられる. 以上の結論から,カーボンナノチューブの磁気伝導はその構造,つまり,電子状態の構造に依存する高次補正項により多彩な振る舞いを示すことが明らかとなり,通常の電子系で期待される普遍的な振る舞いが実験で得られない事実を説明する理論となりうる.
|