研究概要 |
本研究の目的は、緩和過程に関する現象論を排した枠組みで,有限サイズ系の線形・非線形光学応答を定量的に評価することです.有限サイズ系の標準的理論モデルとして,Nサイト一次元フレンケル励起子系を考察します.前年度の研究では,独立原子集団の場合など,個々のサイトが独立(励起移動Vが零)という状況での三次非線形感受率を解析的に評価し,γ_d>>Nγ_nの場合(但し,γ_d:位相緩和レート,γ_n:無輻射緩和レート),x^<(3)>が系のサイズに比例して増大することなどを見出しました.本年度は,(i)励起移動が存在する場合への理論の拡張,(i)微視的連続モード模型からの輻射緩和レートの導出方法の提案,を行いました. (i)励起移動Vの存在により励起状態エネルギーの縮退が解け飽和非線形性が復活するため,Vは非線形性増大因子として働き,大きなVの存在下ではX^<(3)>のサイズ比例増大が起こることが知られています.励起移動Vを考慮した理論モデルを用いた数値計算の結果,Vによるサイズ比例増大と前述の位相緩和によるサイズ比例増大とが共存し,サイズ2乗比例増大が起こりうること(但し,サイト数が大きくなるに連れてその条件γ_d>>Nγ_nは厳しくなること)を見出しました. (ii)量子光学(共振器量子電磁気学)分野では,輻射緩和を2つの緩和パラメータにより記述し,緩和ダイナミクスを厳密に取り扱う理論が発展しています.本研究では,半導体光物性で実現可能な,平板型共振器中に埋め込まれた量子ドットを考察対象にとり,共振器量子電磁気学理論に現れる2つの緩和パラメータを,微視的連続モード模型から導出する公式を導きました.これにより,量子光学で獲得されている知見を半導体光物性へと"翻訳"することができ,物性予測に役立てることが可能となります.
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