研究概要 |
平成18年度は昨年度に引き続き、磁化の高速な空間的運動を観測するための測定装置の開発を主に行った。測定装置の空間分解能は、当初想定していた1マイクロメートル程度では、磁壁の運動の観察には十分でないことがわかったため、空間分解能の向上に多くの時間を使った。前年度開発した測定装置からの主な改良点は、以下の通りである。1)プローブ光の波長を800nmから400nmに変更した。2)高開口数の油浸対物レンズを用いた。3)焦点と試料位置を固定するためのフィードバック制御機構を設けた。4)磁化の初期化機構を設け、磁化反転のような永続的な現象も観測可能にした。これらにより、空間分解能約200ナノメートル、時間分解能約200フェムト秒を同時に達成している。これは世界的に見ても、極めて高い水準の性能であるといえる。本装置を用いて、フェムト秒パルス光照射により磁化反転(いわゆるキュリー点記録)を誘起した様子の観察を行った。典型的な光磁気記録材料であるTbFeCo合金薄膜(TC〜420K, HC〜1000Oe,膜厚35nm)に、HC以下の磁化と逆向きの磁場(〜300Oe)を印加しておき、フェムト秒パルス光(時間幅〜200fs,スポット径〜2.5μm,パルスエネルギー〜200pJ)を照射したところ、光照射を行った領域に磁化の減少が起こり、光強度の強い中心部の直径約1μmの領域の磁化が反転し、その他の光強度の弱い領域の磁化が元の状態に回復する様子が明瞭に観測された。しかしながら、磁壁の運動の観察を行うには、現時点では偏光検出精度などに不十分な点があり、目標としていた、磁壁の運動の制御にはいたらなかった。目標達成のためにはさらなる装置の改良が必要である。
|