研究概要 |
2次元電子は薄膜の厚みや電子濃度などの物理量を僅かに変化させるだけで絶縁体相,金属相,超伝導体相が出現するため量子相転移や量子ゆらぎを研究するのに適した系である.我々は独自に作成に成功したアモルファスニオブ超伝導薄膜および吸着物質により誘起される半導体表面2次元電子を用いて電気輸送特性の測定を行ってきた.しなしながら,今までは研究は零磁揚および低磁場(3T以下)の測定に限られていた. 本研究は測定を高磁場領域に拡張することにより(i)超伝導薄膜のボルテックス状態,(ii)吸着物質により誘起される表面2次元電子系への影響を明らかにする.以下に(i),(ii)について成果を記述する. (i)測定領域を低温・高磁場へ拡張するために超高真空装置へ自作希釈冷凍機および超伝導磁石の導入を行った.このことにより磁場7T,最低温0.2Kの多重極限下でアモルファスニオブ薄膜の極低温ボルテックス状態の研究を行うことが可能になった.乱れたアモルファスニオブ薄膜では強磁場下でも超伝導は完全には壊れることなく,興味深いボルテックス状態を形成している可能性がある.引き続き系統的な測定が必要である. (ii)半導体であるInSb(インジウムアンチモン)の表面に様々な物質を吸着させると2次元電子が誘起さえるは光電子分光の測定などから知られていたが,電気輸送特性の測定は技術的困難から行われてこなかった.今回,我々は微細加工を駆使しInSb劈開表面の2次元電子系の電気抵抗測定に成功した.さらに高磁場下で量子ホール効果を観測することによりこの系が完全な2次元電子系であることを明らかにした.この系は吸着物質を自由に変えられる利点があり,吸着物質と表面2次元電子の相互作用により新奇な物性を示す可能性がある.現在,吸着物質を磁性体である鉄を用いた系に拡張している.
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