研究概要 |
本研究の目的は,重希土類元素であるGdおよびTbを含む充填スクッテルダイト化合物における電子状態の特徴とその物性との関係について,微視的観点から明らかにすることである。これら系では,構成要素の遷移金属がFeの場合には強磁性転移を示すのに対し,同族元素のRuの場合は反強磁性転移を示すことが知られており,物理的性質がよく似ていると考えられる同族の遷移金属の違いによって低温の物性が全く異なる点など,非常に特異な振る舞いを示す。そこで,昨年度のTbFe_4P_<12>に引き続き,本年度はGdFe_4P_<12>の^<31>Pの核磁気共鳴測定を行い,ナイトシフトおよび核スピン-格子緩和時間の測定から,系の電子状態の微視的な情報を得た。本年度の研究により得られた新たな知見について以下に記す。ナイトシフトの温度変化は帯磁率の温度変化にスケールし,その解析から超微細結合定数の大きさを評価した結果,TbFe_4P_<12>の場合と同様に,Pの3p軌道とGdの4f軌道との間の混成が大きいことを示した。一方,核スピン-格子緩和時間の測定からは,常磁性状態でのスピンの動的な振る舞いがGd^<3+>の局在スピンの揺らぎに支配的であること,および強磁性転移温度以下ではその揺らぎが抑えられて,緩和時間が急激に長くなることを示した。また,常磁性状態でのスピンの揺らぎが異方的であることを示した。これは,同じく低温で強磁性転移を示す充填スクッテルダイト化合物EuRu_4P_<12>の場合には,常磁性状態でのスピンの揺らぎが等方的であることと対照的であることを示した。 今後も引き続き,低温で反強磁性転移を示すTbO_<S4>P_<12>の^<31>P核の核磁気共鳴測定を予定しており,強磁性および反強磁性を示す系の電子状態の違いを比較し,その物性との関係について微視的な観点から明らかにしていく予定である。また,遷移金属がRuの場合の結果とも比較する予定である。
|