研究概要 |
近年,磁性と強くカップルした強誘電性を示す物質群(マルチフェロイクス)が,新奇なデバイスへの応用の期待から注目されている。こうした強誘電性の起源を明らかにするには,スピンおよび格子の静的・動的構造について調べることが非常に重要である。そこで本年度は,マルチフェロイクスの代表的な物質であるTbMnO_3を対象とし,その磁気構造および格子ダイナミクス(フォノン)について以下の研究を行った。 1.磁気構造解析の3次元中性子偏極解析 TbMnO_3の磁気構造は磁気転移温度T_N=42K以下でサイン波秩序を示し,強誘電転移温度T_C=28K以下で楕円状の螺旋秩序を示すことが明らかになっている。さらに詳細な磁気構造を調べるため,3次元中性子偏極解析実験を行った。その結果,TbMnO_3の磁気秩序はT_C以下でサイン波秩序から螺旋秩序へ連続的に変化していることが明らかになった。この変化は有限温度で飽和し,その結果楕円状の螺旋秩序となる。また,楕円螺旋秩序の時の楕円の主軸はこれまでb軸を向いているとされていたが,実際にはb軸から傾いていることが分かった。これは強誘電転移に伴う結晶構造の対称性の低下を反映していると思われる。 2.フォノン測定 RMnO_3における強誘電性の起源は,螺旋磁気秩序がDzyaloshinsky-Moriya相互作用を介してc軸方向への原子変位を引き起こすため,と直感的には理解されている。この描像が正しければRMnO_3はいわゆる変位型強誘電体であり,強誘電転移に伴ってc軸方向に分極するフォノンがソフト化するはずである。そこで,非弾性X散乱実験によってTbMnO_3のフォノンを測定した。特にc軸方向に分極したフォノンに注目して測定を行ったが,測定の結果,強誘電転移の前後でフォノンには特に異常は観測されなかった。このことはRMnO_3における強誘電転移は単純な変位型とは異なることを示唆している。
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