17年度の研究により、スペルミジン(3+)により凝縮した一分子DNAの伸張-緩和サイクルで力学応答に速度に依存した履歴が現れることを見出した。18年度は履歴の要因を明らかにするためのデータを増やすとともに理論的考察を行い、以下の二つの要因から履歴が生じるという結論を得た。 (1)緩和過程における凝縮の核生成 (2)伸張過程における速度に依存したエネルギー散逸 (1)については、核生成率の速度依存性に関する理論曲線を導出し測定結果と比較することで、緩和過程に現れる張力の急激な増加が核生成に起因していることを明らかにした。(2)については、測定で得られた摩擦係数(10^<-7>kg/sec)に対し、溶媒の粘性抵抗及びDNA鎖近傍のスペルミジン分子の不均一性は無視できることを示し、散逸が凝縮DNA内部で生じていることを明らかにした。さらに凝縮DNA伸張時の散逸がKramers的ダイナミクスで説明可能であり、その機構にDNAの曲げ弾性(semiflexibility)が強く影響していることを示した。これらの結果は現在論文投稿中である。 荷電ナノ粒子を用いた測定では、粒径や電荷量変化に対し力学応答に顕著な違いを見るには至らなかったが、可視化が容易なことからDNA鎖上を動く分子(蛋白質)のモデルとして有効なことが分かった。 本研究では静電相互作用を介し凝縮したDNAに対し、一分子レベルのダイナミクスに関する定量的知見を得ることができた。これらの結果は、荷電高分子鎖のダイナミクスについて新たな知見をもたらすとともに、生体内のクロマチン構造変化における静電相互作用の影響を評価する上で極めて重要な意味を持つと期待される。
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