研究概要 |
昨年度に引き続き,構築されたバランス台風モデルを用いて,台風強度と環境場との関係についての統計的解析を行った。その結果,台風の十分な強度発達のためには,高い海水面温度環境のみならず,定常に達するまでの十分な経過時間(台風発生から140時間以上)を要することが理解された。経過時間の不十分な台風は,陸地や強い風の鉛直シアーの影響を受けて定常に達する前に減衰してしまうことが明らかとなった。すなわち,台風の発生位置や進路までもが,間接的には台風強度に影響を及ぼしていると言い換えられる。また,これらの統計解析の結果に基づき,個々の台風のピーク時の強度を台風発生時に瞬時に推定できる回帰関係式を提案し,リアルタイム台風災害ハザードマップの構築が可能となる画期的な結果を得た。 更に,これらの知見に基づき,非定常な台風強度変化を評価できる台風強度予測システムを構築した。気象モデルMM5から得られる台風の環境場(海水面温度,対流圏界面温度,水蒸気プロファイル,風の鉛直シアー,海洋混合層深等)に関する情報を入力値とすることで,低い計算機資源の下で台風の内部構造とその強度が予測可能となった。本システムを用いて実事例として1999年の全台風の強度予測実験を行い,精度検証することで,平均バイアス誤差±5hPa以内で台風強度予測が可能であることを実証した。 以上より,今日まで台風予測において問題となっていた1)空間解像度の問題,2)モデル定式化の問題,3)初期値の問題,のうち1)と2)の問題が本研究により解決され,高精度かつ経済的に台風予測が可能となった。依然として3)の問題が残されるが,更なる高精度化のための今後の最重要検討課題であると言える。
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