研究概要 |
梅雨前線は,時間的にも空間的にもさまざまなスケールの現象から成り立っている。梅雨期は雨の多い期間であるが,同じような天候が日々持続するのではなく,活発期と不活発期がある。活発期には発達したメソ擾乱やそれに含まれる対流セルにより局地的な降水がもたらされ,不活発期には前線自体が不明瞭になる。 本年度は,梅雨前線の消滅と再形成に着目し,そのメカニズムや予測可能性について調べた。分析したデータはAFES(地球シミュレータ用大気大循環モデル)を用いた高解像度(水平解像度約20km)シミュレーション及びALERA(AFES-LETKF実験的再解析)である。 2005年6月下旬,梅雨前線の北上が遅れ,日本の南岸に停滞していた。6月26日前線は亜熱帯高気圧の強化に伴って,急に消滅した。華中で小低気圧が発生し,黄海,朝鮮半島から日本海へ進み,梅雨前線が再形成された。 データを詳しく分析したところ,以下のことが明らかになった。亜熱帯高気圧の強化は西から伝播してきたロスビー波束によるものである。梅雨前線は亜熱帯高気圧の発達に伴って,暖かく湿った南西流が梅雨前線に収束しなくなり弱化していった。一方,偏西風の蛇行に伴ってできた大陸上の気圧の谷で低気圧が形成され,これが日本海上に進みながら,下層の不安定と結合し新たな梅雨前線を形成した。 この現象に伴う流れの不確定性についても調べた。梅雨前線上の小低気圧には不確定性が伴っている。梅雨前線の消滅に前後して,南西流の先端で不確定性が増大していた。また,大陸上の低気圧発生に伴う不確定性の増大も見られた。 今年度は、梅雨前線にとって重要である水蒸気の移流を精密化することを目的として,新たな空間内挿スキームを考察し,その精度について示した。 本課題では,地球シミュレータ上の高解像度全球シミュレーションや再解析データ等を用いて,いくつかの事例について,梅雨前線の活動がアジア大陸上空を流れる偏西風に沿って伝播するロスビー波束の影響を受けていることを示すことができた。
|